脾臓の役割について

人間は役割別に色々なパーツに分かれており、それを臓器といいます。

最も有名なのは、胸の、真ん中に納まっている心臓でしょうか。

また、胸の両サイドには肺があります。

お腹にもたくさんの臓器があり、適切な場所に配置されています。

 

脾臓とは

脾臓(Spleen)はお腹の中では左上にあります。

長さは10cmで厚さは3cmくらいの臓器です。

中身がぎっしり詰まっている臓器を実質臓器、中身が中空な臓器を管腔臓器といいますが、脾臓は中身が詰まっている実質臓器になります。

実質臓器というと他に肝臓や腎臓、膵臓などが挙げられ、管腔臓器というと胃・小腸・大腸、膀胱などが挙げられます。

実質臓器は空気が介在しないため超音波(エコー)検査で見やすい一方、管腔臓器は空気が邪魔になり超音波検査で見にくい臓器になります。

 

脾臓の役割

脾臓の内部には赤い部分(赤脾髄)と白い部分(白脾髄)があり、それぞれで役割が異なります。

①赤脾髄

脾臓には多量の血液が流入しています。赤い部分(赤脾髄)では、古くなった血液成分(血球; 赤血球, 白血球, 血小板)を濾過し、破壊していきます。実際に破壊しているのは脾臓内のマクロファージです。

脾臓に流入する血液が多くなると、脾臓のサイズも大きくなりますが、その状態を脾腫といいます。血液の流入が増加しているということは、濾過される血液も増加するわけで、その結果マクロファージに回収・破壊される血球の量も増加します。脾臓の処理能力が上昇していることを意味し、この状態を脾機能亢進と呼びます。詳細な定義は以下の通りですが(Dameshek. Bull NY Acad Med. 1955)、診断のハードルが高いため、現実には総合的に診断されています。

  1. 血球(赤血球・白血球・血小板)のどれか1つ以上が減少していること
  2. 骨髄(骨の中で血球を作っているところ)の活動が増していること
  3. 脾腫があること
  4. 脾臓を手術で切除すると血球の減少が改善されること

②白脾髄

白い部分(白脾髄)は全く異なるはたらきをしており、免疫を司ります。

具体的には

  1. 免疫細胞を教育する
  2. 外敵を除去する

という役割があります。

前述の通り、脾臓には多くの血液が流れていますが、そこには異物や外敵が流れています。赤脾髄には、免疫細胞を教育するための細胞(interdigitating cell; IDC, 抗原提示細胞の1種)が多数存在しています。IDCが外敵を捉え、その一部を免疫担当細胞(T細胞)に提示することにより、免疫担当細胞が外敵を認識できるようにしています。

また、別の免疫担当細胞(B細胞)も赤脾髄で教育されます。B細胞の教育担当細胞(Folicular dendric cell; FDC)が赤脾髄にいて、同様に外敵の一部を提示することにより、B細胞も教育され、外敵を認識できるようにします。このようにB細胞の教育の場を胚中心と呼び、胚中心がある免疫器官を二次リンパ小節と呼びます。

以上の働きで教育された免疫担当細胞が、脾臓に流れてきた中にいる外敵と戦い除去します。また、教育される前に即効性をもって戦う免疫担当細胞(IgM メモリーB細胞)が脾臓に多く分布することがわかっています。

さっきと異なり、流入する血液が増加しても、免疫能力が上昇することはありません。脾機能亢進とは基本的にnegativeな文脈で使用されます。

脾臓がなくなったら

脾臓はもともと血球の除去を担当していたので、脾臓がなくなることで除去の能力が低下し、血球が増加することがあります。血球の破壊は脾臓だけでなく肝臓でも行われており、血小板などは一定期間が経過すると自然に崩壊するメカニズム(アポトーシス)が存在しているため、いつまでも古い血球が体内を循環しているということにはなりません。

また、脾臓は免疫細胞を教育するしていたので、脾臓がなくなると、免疫細胞の教育がおろそかになり、免疫力が低下します。教育された細胞が担当しているのは細菌への免疫であり、細菌への免疫が低下すると考えられます(ウイルスに対しての防御も弱くなる可能性が示唆されている)。ただし、他の教育機関も存在しているため(骨髄など)、完全に教育が失われるわけではありません。血液の中で外敵を排除する能力も、脾臓で攻撃できなくなるので低下します。

特に細菌の中でも莢膜というものを持っている細菌に対して脾臓が重要です。莢膜を持つ細菌は肺炎球菌やインフルエンザ桿菌、髄膜炎菌が有名です。これら細菌が初めて体に侵入してきたとき、IgMメモリーB細胞による初期対応が重要になります。しかし脾臓がないときにはこのIgMメモリーB細胞もなく、これらの感染症に対して重症化しやすくなります。

最初に細菌が入ってくる前に、免疫細胞に予行練習をさせる必要があり、それがワクチン接種になります。するとあらかじめ体内では教育が(脾臓以外で)行われるため、いざこれら細菌が侵入してきたときも初動が早く、重症化を防ぐことができます。

 

 

 

 

 

 

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