下部消化管内視鏡検査(大腸カメラ)の質を示す指標に「Adenoma detection rate (ADR)」というものがあることを先日記載しました。
「無症状の検査者に大腸カメラを行ったときに、大腸ポリープが見つかる確率」になります。
厳密な定義(NEJM, 2010)では
無症状…ポリープや大腸癌切除後ではない、10年以上大腸カメラを受けていない、便潜血検査は陰性である、腹痛・鉄欠乏性貧血・胃腸からの出血・体重減少・排便習慣の変化・他の検査で腹部に異常が指摘されている・憩室炎・炎症性腸疾患がない
とされています。
また、ここでいう「Adenoma」は一般的に「大腸ポリープ」に近いですがやはり厳密にはInternational Classification of Disease, 9th revision (ICD-9)という国際分類で決められており、日本でいう早期癌も含んでいます。
今度はこのADRがどういった結果と結びつくのかを深堀りしたいと思います。
ADRと関連する指標
上の定義が示された論文ではずばりADRと大腸癌との関連が指摘されています。
ADRが高ければ高いほど、その後の定期大腸カメラでみつかる大腸癌(interval cancer)の頻度が関連していたと報告されています。
大腸癌の一定数は大腸ポリープが成長した結果発生します(Adenoma-carcinoma sequence)。
従って、簡単にいうと、大腸ポリープをたくさんみつけられる医師は見落としが少なく、大腸癌の芽を早々に摘んでいる。反対に、大腸ポリープをあまり見つけられない医師は見落としが多く、その中から大腸癌が発生してしまっているのではないか、と考えられます。
特に上のパラグラフの定義を用いた場合、20%以上の確率でポリープを見つけられる場合が、「質の保たれた大腸カメラ」と考えられます。
大腸癌の発生のみならず、大腸癌による死亡とも関連しています(NEJM, 2014)。
ADRが高ければ高いほど、その後大腸癌で死亡する確率が減少します。1%ADRが上昇することで大腸癌で亡くなる確率が3%減少すると報告されています。
ADRを上昇させることは医療費の削減にも役立つのではないか、と考えられています。
その結果、アメリカ合衆国ではADRにより給与が決まっているという話もあります。
ADRの使いにくさ
ADRも万能ではなく、いくつかの欠点があると考えられます。
・ADRの定義が使いづらい
ADRは上の定義でしか測れません。従って、そのような患者さんが少なく、測定することが難しいです。
また、日本と異なり、欧米では切除したポリープは回収しないことが多いです。従って、切除したポリープがADRにカウントできるポリープがどうかわかりません。それゆえ、やはりADRを求めるのが難しいです。
なので、他の指標としてpolyp detection rate (PDR) が考えられています。が市民権は得ていません。
・一人にたくさんのポリープがある場合が反映されない
ADRは1人の患者で1個でも腺腫があればOKです。そのため、複数のポリープがある人でも1個だけ見つけたら、やる気をなくすかもしれません。代わりに、患者当たりではなくポリープの個数を評価する、adenomas per colonoscopy (APC) という指標がありますが、それはそれで市民権がまだありません。
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