消化器内科向けの話になります。
大腸はつるつるしていますが、大腸カメラを行うと(あるいはCT検査でも映りますが)落とし穴のような凹みがみられることがあります。
これは大腸憩室と呼ばれる凹みです。
凹んでいるだけで、穴が開いている・貫通しているわけではありません。
大腸憩室は50歳時点で20%程度の人にみられ、一般的な所見(正常ではないが、病的かどうかは問わない事項)です。食の欧米化(低線維食、高脂肪食)とともに、近年増加傾向にあります。
指摘されること自体や数の大小自体は特に問題ではなく、日常生活で気にする必要はありません。放置可能です。
ただし、突発的に症状を出すことがあります。
・憩室の底から出血する「憩室出血」
・憩室に菌が繁殖する「憩室炎」
の2つがあり、憩室がある人のうち、前者が5%、後者で10%が経験すると考えられています。
今回はそのうちの憩室出血の治療について紹介します。
憩室出血の治療
急性期(今まさに出血している、出血していたが一時的に止血している)という状態であれば、全例入院となります。
その上で
・大腸カメラで出血している憩室を特定し止血する(輪ゴムで括る、クリップで憩室を閉じる、など)
・動脈からカテーテルを入れていき、出血している血管を詰める
・緊急手術で出血している部位を切除する
といった治療が選択されます(概ね上から順)。
80%程度の憩室出血は自然に止血するのですが、上の方法で止血すると失われる血液がセーブできますし、その分回復・退院までが早くなります。
この憩室出血は一時的な病気であり、出血が止まってしまえば、何事もなかったのように日常に戻ることができます。ただし問題点としては、1年後などしばらく期間が空いて再発することが多い点にあります。
今回取り上げる、「バリウム充填法」は再発予防のための処置になります。
バリウム充填法
バリウム充填法はその名の通り、バリウムで憩室を埋めてしまう方法です。
胃透視などで使用されるバリウムを高濃度に作成します。
これを肛門からチューブを入れて送っていき、大腸全体に行き渡らせます。
憩室を埋まっていることを確認したら、できるだけ回収して終了になります。
バリウムが憩室を埋めることにより、憩室はなくなりません。
憩室にバリウムが残り、そこで炎症を起こし、憩室の壁が厚くなり、出血しにくくなります。
再出血予防にはRCTでの報告があり、行うべきだと考えます。
バリウム充填法を行うことで再発率が1年以内42.5%→14.8%まで抑えることができます。
再発率が高いことに驚きますが、有効性が示されています。
通常使用するバリウムより高濃度にする必要がありますが(70 → 200 w/v percentage)、偶発症は少なく、リスクベネフィットが大きいと考えます。
私個人としては積極的に行っています。
入院中は内視鏡を軸として止血します。
退院後は1度外来で体調変化がないかを伺います。
初めての出血であっても、再出血のリスクを感じる(抗血栓薬の内服など)があればバリウム充填を外来で申し込みます。
2回目以降の出血であれば、そこでバリウム充填を外来で申し込みます。
予防なので効果を体感するのは難しいのですが、それでも再出血を何年も繰り返していた人が入院しなったりするので、よかったと思える時があります。
ただし、急性期(今まさに出血しているときなど)には止血効果は保証されていません。
多分出血している憩室にバリウムが溜まることはないでしょう。
また、バリウムが大腸内に残っていると、大腸カメラはできません(カメラの内部が詰まる)。
従って、もしバリウムを播いた後に再出血すると治療の選択肢が限られるので、急性期は避けるべき治療と考えられます。
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