夏目漱石は胃潰瘍に悩まされました。
今も胃潰瘍は日本人にとって一般的な、身近な病気です。
おそらく、「胃潰瘍」という言葉を知らない人は少ないのではないでしょうか?
多くの胃薬が市販薬でも処方薬(処方箋で入手できる薬)でも出回っており、こちらも我々にはなじみがあります。
処方薬のうち、一角を占めるのが、「プロトンポンプ阻害薬(PPI)」と呼ばれるグループです。
具体的にはタケプロン(ランソプラゾール)、オメプラール(オメプラゾール)、パリエット(ラベプラゾール)、ネキシウム(エソメプラゾール)などがその仲間になります。
PPI内服で胃癌が増える?
最近、消化器系のトップジャーナルである「Gut」にPPIと胃癌の関連が報告されました。
イギリスで1990-2018の間に胃薬が処方された患者のコホート研究になります。
上で紹介したPPIというグループと、H2ブロッカーというグループを比べた検討です。
(H2ブロッカーというのも胃薬のグループの一つでPPIよりは効果が弱いと考えられる)
H2ブロッカーに比べてPPIは胃癌になるリスクが高い(ハザード比1.45)と報告されています。
PPIが胃癌に影響を与える可能性としては
①ガストリンを上昇させる(ガストリンは胃粘膜の過形成を促す成長因子となる)
②胃内の細菌叢を変化させる(胃癌を作りやすい細菌が増殖する?)
などの可能性が挙げられています。
ガストリンはCCK-Bのレセプターを介して、EGFRの活性化、RAS-RAf-MEK1/2-ERK1/2のシグナル経路の活性化を招く可能性考えられています。そしてCCK-Bは胃癌で過剰に発現しています。
PPIの処方は控えるべきななのか
ではPPIの処方は控えた方がいいのでしょうか。
イギリスにはピロリ菌感染が少ないという事情があります。
今回の研究でもピロリ菌感染者は2%程度しかいません。
一方では日本には高齢者で50%を超える感染率となっています。
その結果、リスクが高いといっても10年間で
PPI: 0.2%
H2ブロッカ: 0.1%
程度と、低い次元でのどんぐりの背比べ状況となっています。
ピロリ菌の有無が胃癌には決定的に重要であるので、薬剤の違い以上にピロリ菌の有無が重要であるといえます。
他にも、ピロリ菌を除菌した後の患者でも、PPIはH2ブロッカーに比べて胃癌になるリスクを上げているとの報告もあります。
以上より、大きな問題ではないものの、PPIと胃癌の関係は考慮した方がよさそうです。
最後に
まずはピロリ菌を除菌することが最優先です。
ただし、除菌後は症例に応じて、PPIの処方を止める道を探すのが大事だと思われます(無理のない範囲で)。
PPIには安全とはいえ、他にも副作用がありますから(肺炎、骨粗鬆症、クロストリジウムディフィシル腸炎、血球減少など)
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