胃底腺型胃癌について

胃にピロリ菌がいるかどうか。

それが永らく胃カメラをする医師にとっての最大の関心事でした。

日本ではピロリ菌の感染率が低下しています。

一般にピロリ菌がいない人での胃癌は稀です。

そこでピロリ菌が感染していない中で発生する胃癌のうち、胃底腺型胃癌について取り上げます。

<胃底腺型胃癌とは>

2010年に順天堂大の上山先生が提唱された、比較的新しいタイプの癌です(Am J Surg Pathol. 2010 May;34(5):609-19.)。その後、主に日本での報告が続きました。

2019年にWHO分類に新たに組み込まれ、世界的にも認知されました。

Gastric adenocarcinoma of fundic-gland type (GA-FG)と呼ばれます。

 

以下は主に2018年のAJCPを引用します。

(Mark A Benedict, DO, Gregory Y Lauwers, MD, Dhanpat Jain, MD, Gastric Adenocarcinoma of the Fundic Gland Type: Update and Literature Review, American Journal of Clinical Pathology, Volume 149, Issue 6, June 2018, Pages 461–473)

疫学としてはピロリ菌陰性、U領域に多くみられます。

胃カメラでの所見としては以下になります。

・正色調(周囲と同じ色)か褪色調(周囲より白っぽい、色褪せている)の表面をしており、

・境界不明瞭、粘膜下腫瘍 (SMT)様の隆起がつくられます。

・柔らかい

表面は正常の胃底腺様粘膜に覆われていることから、micro surface patternやmicro vascular patternなど癌の構造はみられません。胃癌を認識する上で必要なDemalcation line (DL) も当然みられません。

従って、この病気の存在を頭に入れて胃カメラの検査をする必要があり、疑わしければ生検がマストになります。

 

なぜ胃癌になるのか(molecular carcinogenesis)、そこは不明です。

Wntシグナル経路やERK経路の活性がみられます。

Wntシグナル経路の活性化は以前紹介した「胃底腺ポリープ」でも活性化していることが知られています。

APC遺伝子変異による家族性腺腫性ポリポーシスの患者様で胃底腺ポリープが多発することともマッチします)

ERK経路を活性化する遺伝子変異にはGNAS変異やKRAS変異があるのですが、胃底腺型胃癌ではWntシグナル経路に加えて、GNAS変異やKRAS変異によるERK経路活性化が加わることが重要なのかもしれません。

 

疾患としては大人しい、予後良好なタイプの胃癌になります。

殆どは20mm未満の小さな癌で見つかります。

癌は表面側から出現し、奥に潜っていきます。

広さと同時に深さも重要ですが、胃底腺型胃癌の多くは2番目に浅い粘膜内癌(SM癌)でみつかり、1番浅いM癌でみつかることも多いです。

従って多くは胃カメラだけでの切除ができ、最悪でも外科的手術で完治を目指せることになります。

 

勿論、何にでも例外はあります。

ピロリ菌除菌後に発癌したケースもあるし、見た目にも異なることもありますし、このタイプの胃癌が原因で亡くなったケースも報告されています(Digestive Endoscopy.2014 Mar;26(2):293-294.)。

また、珍しいため、胃底腺型胃癌全体の特徴というのは断定できません。

ですが、総じて見つかれば完治できる、良好なタイプなのかもしれません。

 

<雑記>

従来ピロリ菌がいないと判断されれば、胃カメラ時には油断することが多かった気がします。

このようにピロリ菌がいなくても胃癌はできることを認識、ピロリ菌がいなくても油断しないようにしなければなりません。

一方で頻度が極めて少ないので、ピロリ菌がいない人を全例定期チェックする必要もないのかな、と思います。

 

 

 

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