一般向け、医師向け、どちらにもなります。
胃酸が逆流して、胸焼けやムカつきを来すことって多いと思います。
胃酸を減らしていた「ピロリ菌」が良くも悪くも減少したことによって、現代人は胃酸が多くなりがちです。
高齢者が増えてきており、胃酸が食道に逆流しやすい構造(食道裂孔ヘルニア)も増えてきています。
現代食は脂質が多く、胃酸も増えがちです。
(※塩分摂取量は減少しています)
このときの症状を表わす言葉に「逆流性食道炎」「GERD」という言葉があります。
これらは同じ文脈で語られることが多く、しばしば混同されると思うのですが、同じ意味を持つ言葉なのでしょうか?
逆流性食道炎とは
英語ではRE(reflux esophagitis)と表現されます。
https://naspghan.org/files/documents/pdfs/medical-resources/gerd/GlobalEvidenceBaaseConsensus_DefinitionofGastroReflux_PediatricPopulationSummary.pdf
この言葉の定義を探すのは案外難しいのですが、
Endoscopically visible breaks of the distal esophageal mucosa
と端的に定義されています。
直訳すると「内視鏡で確認出来る、遠位食道粘膜の欠損」
つまり、内視鏡(=胃カメラ)で確認できるかどうかがポイントになります。
逆に言うと内視鏡をしていなければ、逆流性食道炎とは言えません。
よく重症度でロサンゼルス分類(LA分類, 1999)を重症度で表わすことがありますが、これは内視鏡・胃カメラでの異常を分類したものです(https://gut.bmj.com/content/45/2/172.short)。
逆流性食道炎の重症度分類であり、GERDの重症度分類ではありません。
GERD
こちらはむしろ、略語が有名で、日本語はあまり流布していないと感じています。
英語の正規名称は”GastroEsophageal Reflux Disease”
胃食道逆流症が日本語です。
定義は、これも難しいですが、先程のコンセンサスを利用すると
Reflux of gastric contents causes troublesome symptoms and/or complications
と定義されます。
「胃内容物の逆流により、困った症状や偶発症がみられる状況」といった状態でしょうか。
症状とは上腹部痛、胸焼け、胸部不快感、呑酸、咳などです。
GERDの定義では胃カメラは不要である一方、症状で診断することが可能です。
そしてLA分類などのように、GERDそのものについての重症度分類は確立していません。
NERDとは
消化器関連の医師であればNERDという言葉も知っているかもしれません。
Non-erosive reflux diseaseの略で、日本語では非びらん性胃食道逆流症と言われます(日本語で言っている人は見たことありませんが)。
定義は
The presence of troublesome symptoms caused by the reflux of gastric contents and by the absence of mucosal breaks during endoscopy
となっています。
こちらは胃内容物の逆流で症状が生じているが、内視鏡では食道粘膜の欠損はみられないということになります。
つまり、NERDの診断には胃カメラが必須になります。
全体を通じて
逆流性食道炎は内視鏡所見、GERDは症状です。
両者には関連性が強いですが、
逆流性食道炎≠GERDです。
逆流性食道炎でも症状が無い人もいますし、GERDでも胃カメラで異常が無い人もいます。
つまり、逆流性食道炎+NERD=GERD が最も正解に近いと思います。
これでも、「逆流性食道炎はあるが症状はない人」の存在が入っていないので、完全正解ではありませんが。
両者を混同して使用しているケースが非常に多いので、注意していきたいと思います。
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