口から肛門まで、食事から排泄に至るまでは1本の長い管になっています。これを消化管といいます。
消化管は食べたものを奥に奥にと送っていくために動いています。これを蠕動といいます。
動いているということは消化管も筋肉で構成されているということになります。
胃カメラや大腸カメラで表面を観察しているとき、この蠕動が邪魔になる場合があります。
「動いてよく見えない」ということで写真がブレたり、あるいは波打っている表面の間で小さな病巣が隠れたり…消化管は本来動くべきものですが、検査の上では見落としにつながる場合もあります。
鎮痙剤
これら蠕動を鎮めるための薬剤が存在します。
<注射>(点滴から静脈注射、ないしは筋肉注射)
ブチルスコポラミン(商品名:ブスコパン®)
グルカゴン
<直接カメラから撒く>
メントール(商品名:ミンクリア®)
があります。
ブチルスコポラミンは伝統的な薬剤で、ムスカリン受容体に競合的に結合して、アセチルコリンがムスカリンに結合することを防ぎます。その結果、アセチルコリンがうまく働かず、蠕動が抑えられます。副作用が多いです。
グルカゴンは本来膵臓から分泌される、血糖値を上昇させるホルモンです。グルカゴンも昔から蠕動を抑えるために使用されてきました。なぜ蠕動を抑えるのかは、平滑筋に対する直接作用、という言葉で語られることが多いです。実際にはNO(一酸化窒素)とプロスタグランジンE2を増加させて、筋肉を弛緩させています。他にはカテコラミン分泌を促進して、蠕動が抑えられる、ということもあるようです。投与後しばらくたってからの低血糖に注意がいります。
メントールはハッカに入っている、スーッとなる成分です。カルシウムチャネルをブロックして、平滑筋が興奮して収縮するのを防ぎます。胃カメラのときに有効性が示されています。
ブチルスコポラミンとグルカゴンはどちらが有効か
2003年の検討では蠕動を抑える力は対等であったと報告されています。
メンソールは他の場所でも有効か
胃だけでなく、他の部位でも有効なのでしょうか。
食道は日本で臨床試験中やDDWで検討中、十二指腸は効果あり、大腸は効果あり。
十二指腸:https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=201102276153523989
大腸:https://www.thieme-connect.com/products/ejournals/abstract/10.1055/s-0034-1365035
平滑筋に効果があるので、消化管のどこにでも効果があるのは合点がいきます。
最後に
コストや副作用のことを考えると上部ではスクリーニング時は鎮痙剤なしで開始して、必要時にメンソールを使用する。
精査が想定される場合は、もともとの併存疾患に合わせて、ブチルスコポラミンかグルカゴンを使い分ける、というのがよいかと思います。
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